NO NUKES PRESS web Vol.022(2019/10/25)

Posted on by on 10月 24th, 2019 | NO NUKES PRESS web Vol.022(2019/10/25) はコメントを受け付けていません。

NO NUKES PRESS web Vol.022(2019/10/25)
 
Opinion:黙らせる、忘れさせる、外に敵を作る
 
寄稿:中沢けい(作家)

 
-「黙らせる、忘れさせる、外に敵を作る」の三拍子そろった政策の根底にあるのは2011年の福島第一原発事故ではないか - 
安倍政権の本質とエネルギー政策について、作家の中沢けいさんにご寄稿いただきました。


【NO NUKES PRESS web Vol.022(2019/10/25)】Opinion:黙らせる、忘れさせる、外に敵を作る 寄稿:中沢けい @kei_nakazawa(作家) pic.twitter.com/AVRmpRC9GX http://coalitionagainstnukes.jp/?p=12922

 
 

 「黙らせる、忘れさせる、外に敵を作る」という政策が進行している。ファシズムだと言う人がいる。第二次世界大戦前、つまり戦前に戻ることを危惧する人がいる。しかし、現在の日本で進行している「黙らせる、忘れさせる、外に敵を作る」の三拍子そろった政策の根底にあるのは2011年の福島第一原発事故ではないかと考えている。日本社会が置かれている危機は領土紛争とイデオロギー闘争にあけくれた20世紀の危機ではなく、エネルギー政策の抜本的転換を阻止しようとする勢力と、転換を図ろうと望む勢力のせめぎ合いという21世紀的な危機だと断言できる。時代は前にしか進まないのだ。
 
 2012年、首相官邸前、国会前の反原発抗議行動があれほど多くの人が参加したにもかかわらず、なぜ原発推進の安倍政権が支持されているのかとよく人に聞かれる。「あの抗議行動は、原発事故を過小評価して原発政策推進を目指す人々には脅威だったからだ」と答えている。その答えに納得してくれる人は少ない。時には「負け惜しみ」と痛罵されることもある。場合によっては冷笑されることもある。「ではなぜ、安倍政権がこんなに長期政権になっているのですか?」と質問をかえすと「その理由が分からないんだ」と問答は振り出しに戻ってしまう。あるご婦人は「ねえ、安倍政権支持の人って見たことある?」と聞き返してきた。私自身の周囲では「安倍政権支持」と言明した人は知らない。「安倍政権支持の人はきっと黙っているんですよ」と答えたら「それじゃあ、声なき声の多数派がいるの」と聞き返された。「声なき声」という表現で、おおよその年齢を想像してもらえるかもしれない。学生時代に60年安保闘争を経験した世代だ。私は59年生まれなので、赤ん坊時代のことを尋ねられても困ってしまう。「声なき声が原発推進を支持しているとは思えないんですけど」と答えを濁すしかない。「声なき声」と呼ばれる庶民感情よりもヘンな声が聞こえているんだけどなあと内心で呟く。ヘンな声が聞こえる場所はツイッターを筆頭としたSNSだ。
 
 2010年の8月にツイッターアカウントを取得した。最初は140字の短文の投稿サイトの利用はあまり気が進まなかったのだが、当時、担当していた大学のゼミの学生に勧められ、「ちょっと付き合ってみるか」程度に取得したアカウントだ。アカウントの取得を勧めてくれた学生はもう立派な新聞記者として忙しく仕事をしている。なかなか先見の明があったようで、翌年3月に東日本大震災が起きた時にはツイッターのアカウントを持っていたのがすいぶんと役に立った。当時、仙台に滞在中の同僚の先生の安否確認がすばやくできたのはツイッターを利用していたおかげだ。2012年に、首相官邸前で反原発抗議行動が毎週金曜日に開かれていることを知ったのもツイッターの情報だった。この年はサバティカルで、大学はお休みをいただき、沖縄那覇と東京を往復した年だ。目的は「島尾敏雄の南島研究の探求」だったのだが、そちらのほうはあまり進んだとはいえない。進んだのはツイッター利用だったと、苦笑が漏れることがある。
 
 2012年当時、ツイッターでしばしば「工作員」と言う表現を目にした。ツイッターの中に日本政府に有利な情報を流すアカウントが存在していると言うのである。最初は「はて、そんなことがあるのかしら?」と半信半疑だった。その頃のツイッターはどこか長閑で、2ちゃんねるなどの掲示板にいるネトウヨと呼ばれるような利用者はあまり見かけなかった。ツイッターをはじめとしてSNSは利用の仕方によって得られる情報がそれぞれ異なるので、これはあくまで私の印象に過ぎない。「工作員がいる」と呟いていた人の中には、その頃でもひどい攻撃的なツイートになやまされていたかもしれない。
 
 原発事故発生から8年が過ぎた。どうやら「工作員」と呼ばれていたアカウントは実際に存在することがかなりはっきりしてきたのはいつ頃だっただろう?常識的な意見や理性的な判断がツイッターで攻撃されるところを何度も見てきたからだ。ごく最近も香山リカさんがお父様から朝鮮人徴用工が酷い扱いを受けている話を聞いたというツイートに「作り話だ」などと絡むリプライが大量についた。果ては「医者にかかったほうがいい」などという書き込みまで現れる始末で、毎度、繰り返されていることとはいえ呆れた。朝鮮人徴用工が酷い扱いを受けていたという話は、私以上の年代であれば、日常的に聞く話だった。それが大騒ぎになってしまう。
 
 最近、1935年2月に起きた天皇機関説事件のことをよく考える。それまで憲法学の通説とされていた美濃部達吉の学説が、突如として貴族院(現在の参議院)で「不敬」だと攻撃された事件だ。当時、美濃部達吉は大学を退き、貴族院議員となっていた。「不敬」だという攻撃に美濃部は反論したのだが、これが逆に火に油を注ぐ結果になった。30年もの間、通説とされてきた学説で、美濃部は不敬罪で告訴される。取り調べにあたった担当検事も美濃部の著書で憲法を学んでいたのは皮肉な話だ。さすがに不敬罪は起訴猶予処分となったが、美濃部の著作三冊は発禁処分を受けた。同年9月、美濃部は貴族院議員を辞職。しかし、翌年、右翼暴漢に拳銃で襲われ重傷を負った。
 
 天皇機関説事件は過度な天皇の神格化がすすむ過程で起きた奇怪な事件だと思っていたが、最近のメディアの状況を眺めていると、あれはこういうことだったかと納得がいくことがある。 天皇機関説は正しいのか間違っているのかという議論ではないのだ。憲法学者として権威を持った美濃部達吉でさえあれほど攻撃されるのだからという危惧を広めることが目的だったのかと思いたくなる。目的と意識されていたかどうかは分からないが、結果として多くの理性的な学者や研究者を沈黙させることに成功したのは間違いないだろう。 「黙らせる」ためにごく常識的な話を、反論さえできかねるようなくだらない言葉で攻撃するのはSNSでは珍しいことではない。反知性主義と呼ばれることもある。嫌韓を唱えるネトウヨが、ヘイトスピーチに抗議する人々のアカウントに絡むのは見慣れた光景だ。政府に加担する意見を発する特定のアカウントが存在する。専門的な用語を交えて、一般の人の感想に対して優位性を示す意見を述べる。これが大量にリツイートで拡散され、さらには個別のアカウントがほかのアカウントを攻撃するために改変されて利用される。
 
 日本政府が徴用工問題の報復として輸出規制強化、韓国のホワイト国除外を決めてからは、香山リカさんのツイートに見られるような攻撃的ツイートが増えた。SNSばかりではない。あいちトリエンナーレでは「平和の少女像」の展示を巡って、大量の抗議電話が殺到し、抗議電話は美術展とは無関係な保育園や病院などの公的機関にもかかってきたそうだ。さらには「ガソリンをまいて火をつけるぞ」といった類の脅迫は700件以上に及んだ。悪質な脅迫で逮捕されたのはまだ1名にすぎない。この騒動のきっかけを作ったのは河村名古屋市長であり、松井大阪市長がそれに追従した。テレビ、週刊誌では嫌韓報道が流れ、それは台風15号が房総半島を襲っている最中にさえ放送されていた。書店の平台に並んでいた嫌韓本、タブロイド夕刊紙に大文字で踊っていた嫌韓記事が、メジャーな週刊誌、地上波で放送されるテレビにあふれた。まともな意見を持つ人々は沈黙を余儀なくされる。理性的な見解は脅される。それでも嫌韓報道は、ヘイトスピーチへのカウンターで経験を積んできた人々によって、幾分かは押し返されたように見えるのが救いだった。
 
 このような大騒動のかげで、原発事故処理が進んでいる。5万人はいると言われている原発事故の被害者は切り捨てられる。原発事故は、一般的な不安や危惧の表明が、専門用語をちりばめた反論によって押し黙らされてきた分野だ。デマや風評被害を生まないために慎重にならざる得ないことを利用し、専門知識めいた用語を使い優位なポジションをとってごく一般的な意見や感想を押し黙らせてしまう。「だまらせる」ことに成功すると、次は「忘れさせる」が企まれる。原発事故さえなければよかったのにという心理が利用され、見たくないものは見ないという方向へ誘導される。しかし、そう簡単に企み通りにことが運ぶわけではない。忘れようとしても忘れられない重大な事故だ。すると「外に敵を作る」という最悪の方法が登場する。
 
 当初は朝日新聞が「敵」として標的となっていた。ミサイルを発射する北朝鮮が「敵」として設定されていたが、米国と朝鮮戦争終結に向けての話し合いが進む現在は「敵」とすることができない。新しい敵として政権が選んだのは韓国だ。原発政策推進の安倍政権は、もう、韓国へのヘイトスピーチを繰り返す人種差別主義者、排外主義者、そして歴史を捏造する歴史捏造主義者(通常は歴史修正主義と呼ばれるが実際は修正どころか捏造の領域に入っているのでこちらの用語を選んだ)と同列になることさえいとわない。天皇機関説事件にそっくりの現象が、より広範な規模で起きている。目的は戦前のような軍部の権力掌握ではない。原発事故を過小評価し原発政策を推し進めようとすることにその目的がある。軍事衝突としての戦争ではなく、国内の権力掌握が目的だ。ものを言わせないための策謀だ。だから抗議行動を続けることには大きな意味がある。現象はもう静かな内乱状態と言ってもいいのではないか。精神の存亡をかけた内乱を闘っているような気持ちになることがある。
 
 
 
中沢けい <プロフィール>
 
1959年 横浜市生まれ。千葉県立安房高等学校卒業。
明治大学政治経済学部卒。
1978年 小説「海を感じる時」で第21回群像新人賞受賞。
1985年 小説「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。
中沢けい公式サイト 豆畑の友
http://www.k-nakazawa.com/
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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