NO NUKES PRESS web Vol.017(2019/05/29)

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NO NUKES PRESS web Vol.017(2019/05/29)
 
NO NUKES! human chains vol.08:TOSHI-LOWさん ロングインタビュー (聞き手:Misao Redwolf)
 
福島原発事故発生から8年経ちましたが、原発事故はいまも続いています。事故収束もままならず放射能の放出が続き、避難生活者も5万人と言われています(2019年3月現在)。圧倒的脱原発世論を無視し、愚かな現政権は原発を推進していますが、原発に反対しエネルギー政策の転換を求める人々の輪は拡がり続けています。【NO NUKES! human chains】では、ゲストの皆さんへのインタビューを通じ、様々な思いを共有していきます。
 
【NO NUKES! human chains】では、ゲストのかたに次のゲストをご紹介いただきます。Vol.08では細美武士さんからご紹介いただいた、ミュージシャンのTOSHI-LOWさん(BRAHMAN/OAU)のロングインタビューをお届けします。
 
古賀茂明さん吉原毅さん落合恵子さんドリアン助川さん島昭宏さん後藤正文さん細美武士さんTOSHI-LOWさん


【NO NUKES PRESS web Vol.017(2019/05/29)】NO NUKES! human chains vol.08:TOSHI-LOWさん @tacticsrecords ロングインタビュー(聞き手:Misao Redwolf)pic.twitter.com/shzQBkPMk3 http://coalitionagainstnukes.jp/?p=12550

 
 

– その責任の中の一個はオレの一個なんじゃないか –
 
Misao:2011年3月11日に起きた東日本大震災と福島第一原発の事故は、多くの人々にさまざまな影響を与えましたが、TOSHI-LOWさんにとってはどういったものでしたか?
 
TOSHI-LOW:自分がパンクスとして生きている中で、たとえば反戦とか反核ということを歌詞に織り交ぜているバンドが好きだったから、そういうものにすごく興味はありました。だけど、そういうものが好きでも、今の日本において自分は何か行動しているわけじゃないし、じゃあ、やはりファッション的なものだけが好きなのかな、という居心地の悪さがすごくありました。でも、そうじゃないと思いたいというところもあって。
 
鎌仲ひとみさんの映画『六ヶ所村ラプソディー』がでたときも、教授(坂本龍一)が動いて、そのまわりにいたデザイナーのミハラヤスヒロとか、ファッション業界の人たちが熱心に映画を広めようとしていて、オレも誘われたりしたんだけど、何か思ってはいても、少し距離をおいていたんです。オレはライブでMCもしなかった頃で、どうしていいのかわからないし、別に何か言っても何も変わるわけじゃないだろうし、みたいなスタンスだったんです。
 
だけど、3.11東日本大震災が起きて、すべてがひっくり返りましたね。避難するとか支援するという、いろいろな選択肢がある中で、自分は3月12日の夜には福島の県境に、人っ子ひとりいない方に向って行くという選択をして動きました。出産して里帰りしている友達の奥さんが、北茨城に取り残されていたんです。
 
Misao:友達のために北に、原発のあるほうに向かって行ったわけですが、原発のことは意識していましたか?
 
TOSHI-LOW:原発については、どこかですごいことが起きるかもしれないとずっと気になっていたし、イヤな意味の予測は立っていたわけじゃないですか。ドーンと爆発した瞬間に、それに対して何をしたわけでもない自分に責任の一端があるんだと思ったんですね。爆発の映像をみて、その責任の中の一個はオレの一個なんじゃないかなと思って。『六ヶ所村ラプソディー』のときもコメントを頼まれたりしたのに、何もしなかった。でも、そういうスタンスでいたからこそ、逆に、その後の選択肢については後悔しないようにしようと思いました。
 
Misao:細美武士さんが先日のインタビューで、真っ先にTOSHI-LOWさんが物資の支援に動き出したとおっしゃっていました。
 
TOSHI-LOW:いわきなど福島県内にも物資を運びましたが、自分の地元の茨城県もひどい状態で、福島との県境では物流が止まってしまっていた状態だったので、最初は高萩と北茨城に集めた物資を運びました。このあいだ、福島の楢葉町にあるJビレッジに歌いにいったときに、「あのときは、ありがとうございました。あのときにオムツをもらったんです。もう8歳になりましたよ」と、8年も経って言われて、役に立っていたんだなと思いました。物資は役所に置いていくから、もちろん、役所からのお礼の手紙はきたけど、直に言葉をかけられたのは初めてでしたね。
 
Misao:当時小学生の子が成人するぐらい時間が経っていますからね。それは感動的なお話ですね。
 
TOSHI-LOW:別に報われたいと思ってやっているわけじゃないけど、こういうことがあると、そういう行動をしてきてよかったと思いますよね。もし自分が行動していなかったら、ずっと罪悪感みたいなものを引きずったまま、また目を伏せる。まぁ、仕方がないじゃん、みたいな感じにしかなってなかったと思います。
 
Misao:私自身に重ねながらお話を聞いていたんですが、自分は反原発の運動を、被災地や他人のためというだけではなく、最終的には自分のためにやっているんですね。自分の場合、やはり究極のところは、自分自身が納得するかどうかなのかなと。
 
 

– それは卑しいか卑しくないか - 
 
TOSHI-LOW:それは行動原理の選択肢の一個なんだと思うんですよね。自分が何かするかしないかというところで、それは卑しいか卑しくないかということをオレはすごく考えていて。いま自分がその未来に対して卑しいか卑しくないかだけで動いているから、結局は全部、自分のためなんですよね。大人で原発事故を知っていて、子供たちがいて、未来を考えたときに、自分がどういう意見をするべきか。放射能汚染についても、科学的なことがすべてわかっているわけじゃないし、かと言って、ただ単に危ない、危ないと言っているわけでもない。でも、ちゃんとやっている福島の農家は応援したいし。
 
Misao:社会運動なども、怒りや悲しみなどの感情的なモチベーションだけだと、大きなピークがあっても、時間の経過とともにたいていスローダウンしていきます。人間って、怒りのピークを長く保てない生き物なんだと思います。もっと違うところ、例えば自分のためと自覚してやっていれば、安定的にやっていけるのかなとも思うので、究極的に自分のためというのは、そんなに悪くもないのかなと思いますね。
 
TOSHI-LOW:それはライフスタイルということでもありますよね。そういうものを、どう捉えるかという自分のライフスタイルの一環というか。たとえば、ダイエットとかと一緒で、勢いでいきなりやっても続かないじゃないですか。でも、食べ方とか、基本的なところを変えれば、続けることができるかもしれない。反原発の活動も、自分たちのライフスタイルとしてもっと新しいエネルギーがほしいというのは当然だと思うし、そういうものを求めたいし。そのためには、すがっているものからは脱却したいと思うから、自分も今日の取材を受けているんだと思うしね。
 
Misao:ライフスタイルの変化の可視化というか、TOSHI-LOWさんは3.11を境に、坂本龍一さんが呼びかけた『NO NUKES』のイベントに出演したり、ハッキリと原発反対の意思表示をされるようになりましたが、アーティストでそういう意思があっても発言しない、またはできない人たちについてどう思われますか?
 
TOSHI-LOW:以前は自分もそのうちの一人だったわけで、その気持ちもわからないわけではないよね。そんな主張をして右とか左に寄るよりも、いろいろな人に音楽を聞いてもらって買ってもらった方が得だと、思っているんだから。でも本当は、売上なんて変わらないと思うし、そもそも、それに影響されるようだったらそれだけのアーティストだし、売れないのは音楽がよくないだけの話。
 
やはりオレは、売れることを考えて自分の歌詞に夢物語を書くよりは、理想であってもウソではない気持ちを書きたいから、そうなるとライフスタイルとして普段の自分が何をするかが根本じゃないですか。だから、自然と原発反対の意思表示をしたけど、一番初めに『NO NUKES』みたいなところにポーンと触れた瞬間のワーッとした、出る杭を打つみたいな感じももちろんわかったしね。
 
Misao:やはり、そういうことを感じましたか、出る杭を打つみたいな。
 
TOSHI-LOW:感じましたよ、変なメールがいっぱいきたりとか。
 
Misao:それは、ファンの方ですか? それとも…
 
TOSHI-LOW:それが、「もうずっとあなたたちの音楽を聴いていて、すごく好きだったのに、こういう活動に啓蒙されるなんて心底がっかりしました。もう、今日からあなたたちのCDを全部捨ててファンもやめます。もうブラーマン嫌いです」と書いてあるんですよ。「ブラフマン」じゃなくて「ブラーマン」ですよ、絶対にファンじゃないなおまえらって、わかりますよね。そこまでしてイヤがらせしたい人たちがいるんだということもわかって、むしろそれからはもう大丈夫だ、ぜんぜん余裕だと思いました。
 
言わないやつらはみんな、こういうことを見たくないんだろうなとも思いましたね。でも、見てしまえば正体見たりということだから、大したことでもないんだけど、ミュージシャンは打たれ弱い人が多いから。だけど本当は、そこだけ少しガマンしちゃえば、出過ぎる杭は打たれないじゃないですか。
 
Misao:最大限に負荷がかかるのは、突き抜けるときだけですよね。
 
TOSHI-LOW:そうそう。でも、そんなのは皮膚が強くなるようなもので、はじめは熱いと思っているけど、だんだんそうではなくなるじゃないですか。でも、メジャーの体質とか考えると、やはりしょうがないかなとも思います。Gotchなんかは特別なだけであって。そういえば最近、麻薬で逮捕されたアーティストのCDを出荷停止したりとか、ああいうの全部そうじゃないですか。誰に対して同調しているんだろうと思いますね。
 
 
– 一回チャラにして新しいものをはじめればいい –
 
Misao:ほんとうですよね、あれは行きすぎというか異常にさえ感じます。
 
TOSHI-LOW:何かすべてにおいて気を配っている感じじゃないですか。こういうところから、また戦争が始まるんだなという。『はだしのゲン』では、オレはゲンの父ちゃんがすごく好きなんだけど、あの人が非国民と言われるわけじゃないですか。でも、今の時代から見たら、あの人は正しいことを言っていたわけで。だけど、まわりの人は同調圧力に負けて、戦争をやることが正しいんだと言っている。いま、少しずつ、少しずつそうなっていっているというか、そういう足音がしているというか、世界は一歩ずつ戦争に踏み込んでいるのかもしれない。
 
Misao:私もそういう気配を感じますが、特にこの1~2年は加速してきているような気がします。原発推進も行き詰まっていて、世論も圧倒的に脱原発なのに、政府は政策の見直しを一切しない。原発の問題ひとつとってもそんな気配を感じますが、全体的にかなり気持ちの悪い空気感ですよね。
 
TOSHI-LOW:ほんとうは一気に変えることはできるんですよね。それまで間違っていたのは誰なんだという責任問題になると思うから、逆に言うと、そこは責任を問わないからやめませんか、でいいと思う。そこから、一回チャラにして新しいものをはじめればいいのに、いつまでも変えるリスクを恐れて、ずっと、老朽化したものを使うという、いまのそのモヤモヤとした感じですよね。
 
Misao:新潟県の柏崎刈羽原発は、安全対策のPRのためだと思うんですが、施設内の見学ができるんですよ。バスに乗って東電の広報担当の人が案内してくれます。私は去年見学したんですが、何千人も従業員がいる世界で一番大きな原発だけあって広い。実際の施設を見て、事業者はこれを潰そうとは思えないだろうなと実感したんですね。やはりリスクを負いたくないというか、いまあるものを崩す変化を恐れるのは、電力関係の人もすごく強いんだと思うんですよね。
 
TOSHI-LOW:ほんとうは、その変化の先にもっと大きな富が眠っているかもしれないのにね。自分がバンドをやったり、音楽の世界にいる理由は、そんな世界が大嫌いで、そういう大人になりたくないからなんだけど、やはり、大人の世界は思った通りだった。原発についても思った通りだったし。組織力や権力というものがあるときに人は、それに溺れるし、変えられないし、ある意味、お金が支配しているんだということも、大人の大人になってからむちゃくちゃわかって。
 
で、さっきの選択肢の話になりますが、それは浅ましいか浅ましくないかというところで、自分は浅ましくない方にいたいと思うし、そこは、スタイルとか好き嫌いでいいんだなと思うんです。原発についても、いいとか悪いとかじゃなくて、その前に大嫌いだわ、オレ大嫌いだわと思っていて。ただ、オレは原発で働いているやつもいっぱい知っていて、福島の東電で働いている人と、この前も普通に飲んで話をしたりしているしね。だって、彼らに責任はないですから。
 
 

– 結局はトラブルはだいたい人間 –
 
Misao:『幡ヶ谷再生大学』について伺いたいと思います。災害などの被災地での復興支援活動をする中で、大変だと思うことはなんでしょうか?
 
TOSHI-LOW:作業が大変なのは当たり前として。それよりも人間ですね、土地柄もあるし。最初は「よそ者が入るのがイヤだから、やらなくていい」と言われて、「この野郎!」とケンカになるくらい、めっちゃ閉鎖的なところも多くて。それでも、一人で大変な人やオープンな人たちに頼まれて、オレたちが作業してどんどんきれいになっていくのを見て、ひと月ぐらい経ってから「やってよ」と、最初に断ってきた人たちが頼んでくるみたいな感じでね。だいたいどこに行っても似ているんですけど、むちゃくちゃ甘えてくるところと、できるだけ自分たちでやってからお願いしてくるところと、気質が少しずつ違っていて。もちろん人間一人ひとり違うこともわかっていますが、地域というものに性質があるとすれば、やはりあるんだなと思って。
 
Misao:そのキツさはわかるような気がします。私は小学生のときに広島市の郊外に引っ越したんですが、小学校が4つあって団地の小学校もある中で、学年に従兄弟が何人もいるような地元の人たちが通う学校に行かないといけなかったんですね。そういう環境は初めてだったんですが、すごく閉鎖的な雰囲気で難儀しました。父親も当時、地元の人たちとの付き合いが難しいと言っていましたし。地元の人たちと私たちよそものの間には、ベルリンの壁みたいなのがあって。
 
TOSHI-LOW:そこなんですよね、一番苦労するのは。でも、やはり継続が大事で、何回か行って顔を覚えてもらったり、一番はじめに怒鳴り込んできた人のところに、ちゃんとあいさつに行ったりすれば、だいたいはなんとかなります。要は、「知らないヤツ」ということがイヤなだけなので、知り合っていくことでこれは解決していきます。だけど、「あっちから先にあいさつしてきただろう」とか、「こっちの方が本家なんだとか」とか言われたりして、地域のルールなんか知らねーよとか思いながらも、「すいません、わからなくて」と頭を下げたりね。だから、結局はトラブルはだいたい人間ですね。
 
Misao:私も社会運動をやって、反原連を運営する中で、何に一番苦労しているかというと、実務的な作業よりも、やはり、人間なんですよね。
 
TOSHI-LOW:ケンカしたり別れたりとかもあるわけでしょう。
 
Misao:ここ1~2年でうち(反原連)もようやく安定期に入りましたが、それまでは内外で色々ありましたね。仕事や生活の都合などで辞める人もいましたが、トラブルを起こして出て行く人もいました。
 
TOSHI-LOW:そもそも、それぞれが違っていて、どこか一匹狼だったりするような人たちが、原発事故があって集まってきているんだから、そりゃあ揉めるんだろうなと思っていたら、案の定、ああ、あの人揉めているなとか、SNSを見ながら思っていました。
 
Misao:反原連は当時10グループ以上の連合だったんですが、グループの規模もそれぞれ違うので、どのグループも公正に関われるように、会議に出られるのは各グループから4人までにするなど、パワーバランスを保つための決め事をしたり工夫もしてまいました。それでも、Twitterで声のデカい人が色々やらかして、そのために色々誤解もされたりして、これでは、本当に汗を流しているメンバーたちに申し訳ないなという気持ちでした。
 
TOSHI-LOW:どこに行ってもそういう人はそうだし、それは別に趣旨とか思想は関係なくて性格の問題で、反対側にもそういう人はいるだろうし。いろいろ大変だろうなと思って見ていました。
 
Misao:私たちの活動を評価してくださる人たちがよく言うのは、「毎週の準備も大変だし」みたいな実務面でしか見てもらえないことが多いので、報われたくてやっているわけではないのですが、そういうところをわかっていただけるのは、私にとってはすごくありがたいです。
 
TOSHI-LOW:自分とちょっと違う意見で譲り合わないことも、対立を煽ることも、すごく時代遅れなやり方だと思っていて、思想が逆の人たちともちゃんと話をしていくことは、すごく大事かなと思っています。バンドでいうと、アナーキズムを信奉するパンクもいれば、スキンズみたいな愛国的パンクもいるし、もちろん究極に変なのもいるけど、オレは基本的にはみんなと仲良くやっているんですよね。実際に顔を合わせているということはすごく大事だと思うから。
 
そこに差別問題が入ってきて、ホワイトパワーのあのバンドと、あいつら一回ライブをやったことがあるからということでTwitterで叩かれると、いや、ちょっと待って、それを言ったらオレらはそいつらを守るよ、となるよね。思想や考えが違うバンドと一緒にライブができないのはすごくナンセンスだと思うし、それだったら、一方的にTwitterで叩きつけるのではなくて、何をどう思っているかをしっかり言ってこいよと思うけど、そのやり方が好きなんだろうね。
 
Misao:一部の左翼的な人たちは、教条的すぎるところがありますね。そういうのを見ると、もうTwitter見るのもイヤになります。私も意見すればいいんですが、左翼が分裂したなどと思われるので、ひたすらこらえるしかないと思っています。私は左翼ではないんですけど、左翼と見られているので。
 
TOSHI-LOW:オレは自分ではいまは極右だなと思っていますもん。最終的にはオレの方が今の自称愛国者より地元が好きだし、日本が好きだし。
 
Misao:本当の右翼とか保守の人はもっと違う次元でものを考えていると思うし、私もネットの極右や極左を見てイヤになったのもあって、自分こそ保守本流だと真剣に思っていますから。
 
TOSHI-LOW:それ、わかります。自分も保守だったんだと。がっかりしちゃった。ずっと自分は革新だと思っていたから(笑)。 
 

– それもずっと地獄だよ – 
 
Misao:ところで、TOSHI-LOWさんといえば、音楽活動や社会活動も含めて、いつも仲間がいるというイメージがあります。
 
TOSHI-LOW:震災後、支援物資を集めたりしたときに、「おまえの音楽が気にくわないから持ってきても受け付けないよ」とかやっていてもしょうがないじゃないですか。それよりは、思っていたのと違ってちゃんとやってくれたことに対して、感謝を述べた方がいいと思ったしね。甘くしろというわけじゃないですが、「ちょっとやってみる?」という感じで受け入れた方が、思ってもいない人が来てくれたりするし、本当はやってみたいんだけど怖くてさ、何か言われるのがイヤだしという、そういう人たちのハードルをひとつ下げることは、やってきたつもりです。3.11のときに学んで、自分はそういうところがけっこう変わったと思っています。
 
でも、売名と言われるのが怖いから、マスクをして行った人もいっぱいいた。本当は、社会的にいいことをするのは、オレたちは社会的な生き物なんだから、義も善もなく単純にいいに決まっているんですよ。元々名前が出ている人は、名前が出ているなりにやればいいし、そうでない人も一緒に来ればいいじゃない。そうすると、やはり一人でやるよりぜんぜん違うし、もちろんオレたちより人気のあるバンドがいっぱいいるので、そういう人たちが手伝ってくれた方が裾野が広がる。売名だとか偽善だとか他人に言っているのではなくて、一緒にボランティアに行った方が自分のためになるんだと思ってもらうほうがいい。
 
オレもずいぶん売名だとか偽善だとか言われましたが、やっていくうちに、それも気にならなくなったし、いまでは、バンドのボランティア活動やチャリティーに関して、ぐちゃぐちゃ言う人は減った気がしますね。オレたちはずっと動いているからね。たとえば、動かなくなってまたポンとやったら、また何か言われるかもしれないけど。こっちはあんたの言うところの売名を8年もやっているんだぞ、面の皮なんかこんな厚いわ、という感じですね(笑)。
 
Misao:売名するなら、もっと楽なことをやりますよね。そういう人たちは、何か自分がやってないことをやっている人に、何か言いたいんですよね。
 
TOSHI-LOW:それもわかるんですよ、自分もそっち側だったから。自分は何もやってないしみたいな、何か罪悪感があるんだろうな、と。そういうイヤなモヤモヤとしたものが、簡単に人を叩いたり足を引っ張ることで、スッキリした気が一瞬するんだろうなと思います。だけどそれでモヤモヤがなくなるわけじゃないから、また次の人を探すわけじゃないですか。でも、それもずっと地獄だよね。
 
Misao:それをぶつけられるのもキツイけど、やっている人が一番地獄なんですよね、きっと。
 
TOSHI-LOW:そうなんですよ。地獄にいる人は地獄にいるかどうかわかっていないから。奴隷が奴隷制の中で階級をつくるみたいなね。それを自分たちがやっている。
 
Misao:奴隷船から出ちゃえばいいんですよ。
 
TOSHI-LOW:そうなんですよ。大きく言えばオレもその船に乗っているのかもしれないけど、船に乗らないように生きようと思うよね。オレらみたいにイカダで動いていると、大きな船がいかにどういうことで動いているかわかることもあるしね。
 
 

– 今年の3.11 –
 
Misao:私たちは主にデモをやっているんですが、デモについてはどう思われますか?
 
TOSHI-LOW:反原連主催のデモにも行っていましたよ。決壊した日は子供が行きたいって言うので連れて行ったんですが、感動しましたね。地下鉄の4番出口あたりにいたのかな。かなり混み合っていて、こっちは出られませんとか、警察にウソをつかれたりして。あのときは本当に、凄い! と思いましたね。あの頃は自分も表明して何かをするということが、迷っていたわけじゃないけれど、やり方がわからなかったものだから、頭数の一人になりたいと思って行きました。
 
Misao:官邸前のデモについて知ったのはインターネットですか?
 
TOSHI-LOW:なんでしたかね。高円寺でデモをやっていたじゃないですか。ああいうのも見ていたんですが、東京でそれをやるのではなくて、そのころは被災地に行って支援することの方が自分の中で大事なことだったから、それはそれでほかに任せようと思っていましたね。でもその頃は、行けるときには行っていましたね。一番人がいた頃じゃないですかね。
 
Misao:あれは2012年の夏だから、6年以上経って、私自身どんどん当時の記憶が薄れつつあるんですが、坂本龍一さんが来たのが印象的でした。万単位の人が官邸前に押し寄せた結果、民主党政権はすぐに「2030年代原発ゼロ」を決定したんですが、その後、安倍政権に交代して、そこからが相当、厳しい戦いになりました。あとは、2030年代からいかに時間を縮めるかの運動に移そうというと私は考えていましたが、野田さんがあんなことを言ったので…。
 
TOSHI-LOW:あの野郎倒してこれでクリアできると思ったら、もっと悪いボスキャラが出てきたというやつですよね(笑)。
 
Misao:再稼働したのも野田さんのときですしね。菅さんもいろいろ言われますが、今となっては安倍さんがよくなさすぎなので、事故のときは菅さんでよかったという再評価はされてきて、だんだん汚名が払拭されている感じはありますが。結局、まだ事故も収束できていないし、いまだに避難している人たちが5万人以上いらっしゃるし。
 
TOSHI-LOW:今年の3.11の日に双葉に行ってきたんです。町役場の人の案内で小学校に入ったんですけど、あの日のままなんですよね。下駄箱に靴が半分くらい入っていて、みんな上履きで帰ったんですね、その日は。ランドセルも置いてあって。ちょうどモップがけをする時間で、モップがそのまま倒れて置いてあるという、14時46分の情景が、そこにはまだそのまま残っていて。
 
町の人も原発がどうとかとは言わないですよね。これを見て感じたことを伝えてくださいと、それだけなんですよ。小学校に行く前に、双葉側から見える5号機、6号機や汚染水のタンク、土壌をきれいにしている場所などを全部見せてくれたんですが、ああ何てものを作って、何てものに頼っていたのかと思うしかなかったです。200円のサンドイッチを盗んだ人を懲役2年で捕まえたら国税800万円かかるみたいな(笑)。
 
Misao:そういう理不尽さですよね。そういう状態の双葉にも、当然、遠く離れた私たちが暮らす場所と同じ時間が流れるわけじゃないですか。5年後、10年後に双葉はどうなっているんでしょう。
 
TOSHI-LOW:おそらく、更地になって中間貯蔵施設ができているんじゃないでしょうか。除染するか家を壊すか、どちらかのお金は町から出る。でも、除染と言っても別に数値を測るわけでもないから、ほとんどの人が家を壊す方向にいく。
 
Misao:現実問題、仕方がないといえば仕方がないとも思いますが、悔しいなと思いますよね。
 
TOSHI-LOW:双葉に住んでいるけど、原発はない方がいいと思っていた人たちもいたと思うし、その人たちが一番、はだしのゲンのお父さんみたいな感じなんだろうなと思いますね。故郷を奪われた上に、そこに呪いみたいなものがずっとあるというね。帰れない故郷があって。
 
Misao:2014年にうちのメンバーや関係者30人ぐらいで、バスを借りて双葉とかに行ったことがあります。以前からつながりのある、佐藤かずよしいわき市議に案内してもらったんですが、彼は双葉出身で原発ができる前から反対運動をやっていました。まさに、ゲンの父親のような気持ちなんだと思います。その日何箇所かで、みんながバスから降りて線量を測ったりしたんですが、かずよしさんはバスから降りたくないと言って、ずっとバスの中にいました。当事者の気持ちは、想像はできるけど想像を絶するものがあるんだろうと、そのときに強く思いました。
 
 
– せっかくだからもっといただいてやろうと思っていて –
 
Misao:TOSHI-LOWさんが生きていく、動いていく上で、大事していることはありますか?
 
TOSHI-LOW:粋か粋じゃないかぐらいですね。なんでもそうじゃないですか。すごい正しいこと、被災地で復興支援のボランティアをやっていても、粋じゃないボランティアもいて。たとえば社協(社会福祉協議会)なんかは、ここまでと線を切って、そっちのおばあちゃんのところはここまでなんです、というようなことがいっぱいあって。「どうしました?」とおばあちゃんに聞いたら、社協では裏庭はやってくれないと言われていると。後は、行政は、あと10分で全部が終わらせられるのに17時になるとそれを残して終わるみたいな。もったいないな、と思いますよ。
 
Misao:運動でもそうですよね。一部の組合系とかセクトとか。
 
TOSHI-LOW:デモでワンイシューなのに変な幟旗を立てている人たちね。幟旗を上げに来るところじゃないと思うんですよね。ああいのはいらねーなと思うし、やはり粋じゃないんですよね。そういうのはかっこ悪いよね。なんでも、やはり、粋か粋じゃないか、そこなのかなと思います。
 
『TOKYO NO HATE』のデモで、画面宣伝カーが出るからメッセージをくれと言われたんですが、世界中の人たちに「愛し合いましょう」みたいなことを言うのって、すごく粋じゃないなと思って。だったら、オレたちは歌えるんだから歌をうたえばいいし、こういうときは粋な人だったら何をするのかなと考えたら、やはり清志郎のことが思い浮かんで、清志郎なら歌うだろうなと思ってGotchに電話をしたんです。「考えたんだけど歌おうよ、エセタイマーズやんね?」と。で、一番ヘイトから遠い歌を歌おうということで、『青空』を歌いました。
 
Misao:覚えています。TOSHI-LOWさんたちのうた声が聞こえてきて、みんなが喜んでいました。でも、喜んでいた人の中で、そののちに教条主義的になった人たちもいて。まだ、あの頃は活動をはじめたばかりの人も多くて、そこから何か違う方向に進化していった人たちもいます。
 
TOSHI-LOW:でも、それも仕方ないですよね。一番はじめにオレたちのファンだった人が、もっとハードコアなバンドを好きになって、いきなりオレたちのことを、「あんなのパンクじゃねー」みたいに言い出すとかあるもんね。でも、わかるよ、それも、うん。また一周して戻ってきなとも思うけど。
 
Misao:ところで、TOSHI-LOWさんが、原発事故から学んだことはなんだったのでしょうか?
 
TOSHI-LOW:粋か粋じゃないかで選んでいったら、世の中の人に「原発って粋だと思います?」と質問したら、だいたいは「粋じゃないですね」と答えるんじゃないですかね。じゃあどうしましょうということになると、そのためには思っていても何もしなければ何もしないことと一緒なので、それを一個の行動に変えるというのが、福島第一原発の事故から学んだ一つのことだと思っています。どんな素敵な思想を持っていても、行動が伴わなければということだと思うんですよね。
 
すべて感情論が悪いとか言うけど、感情論を引かれたらオレたちの職業はないからね。大変だろうなと想像したり、故郷を奪われるのはイヤだろうなと想像したり、そういう悲しさから得るものも、故郷を復興して、また会えたねといううれしさから来ることも、すべて自分たちの心の大きな肥やしというか、豊かなものになっていくから。それも現場で動いていかないと本物のものはもらえないので、いただくというか、オレはせっかくだからいただいていると思っていて、もっといただいてやろうと思っています。
 
Misao:「いただく」というのは逆に考えると、すごく謙虚な姿勢だと思います。裏返すと「与えている」という高飛車な意識がないということですよね。
 
TOSHI-LOW:それはないですね。だって、オレが被災者で避難所にオレみたいなのが来て何か歌ったら、なんだ? と思いますよ。うるせー、この下手くそとか(笑)。
 
 

– 日本にとっての武力 – 
 
Misao:でも、そういうふうに思えることはすごく貴重なんだと思います。反原発の活動をやっている人の中でも、福島に寄り添って「あげる」というような意識を持っている人もいて、与えてあげているみたいなものがにじみ出ているというか、そういうものには違和感をおぼえます。自分もできる限り浅ましいことはしたくないと思って生きていますが、それをしないと損をする場面もあるじゃないですか。でもそこは何か、譲れないというかできないというか、しませんよね。
 
TOSHI-LOW:大人って浅ましいんですよ、たぶん。戦後、子供たちが「ギブミー・チョコレート」と言って米兵からもらったチョコレートを、ガーンと殴って取り上げたのは大人たちだったんですよね。大人は、自分で意識していないとどんどん浅ましくなるんだと思います。
 
でも、大人の利点として、悪いことも想像できる力はありますよね。例えばなんで安倍がそんなことをするのかできる限り想像してみると、そうか、まわりにこういう人がいて、こういう人たちはこういうことで動いていて組織の論理があるのかと。先ほどお話のあった大きなプラント、柏崎刈羽原発を潰すという方向よりは、なんとかして動かして、国のお金を持ってきた方がいいだろうとか、一回潰して自分の友達の建設会社を入れたほうがいいだろうとか。そういうことが、全否定じゃなくて、もちろん肯定するわけじゃないけど見えてくるものがありますよね。で、見えてきた中で、やはりこれは嫌いだわ、と思うわけですが。
 
Misao:そういった、浅ましい大人の為政者や原発ムラの思惑がはずれて、いまは原発推進が難しくなっている状況です。核の傘とか、核抑止力なんていうのは、米ソ冷戦時代の負の遺産でしかないと思います。
 
TOSHI-LOW:そうなんですよ。いまは廃炉技術を世界的にもすごく高められるチャンスなのに、何かもっと先のチャンスをみすみす捨てている気がしています。『繁栄の花』という星新一のSF小説があるんですが、宇宙人がある花を地球人に売って、それがすごくいい花だからと地球人が勝手に増やしちゃうんですよ。結局、その花は増やすと永遠に増え続けて枯れないので困ってしまう。そこで宇宙人がその花を食べるミツバチ的なやつを売りにくるんですが、宇宙人は本当はそっちを売りたかったんだという話で。
 
Misao:なんかゾワっとしますね。
 
TOSHI-LOW:「そっち」なのになと、オレはすごく思っていて。本当は、いま原発うんぬんというよりは、それに対して本当に国力をかけて核のゴミを減らせる技術ができたら、それが日本にとっての武力になるのになと思っていますけどね。
 
Misao:本当ですよね。もう核で牽制し合うというのは、本当にリセットしないと。
 
TOSHI-LOW:リセット、早くそういう代になるといいなと思っていますし、いずれなると思っているんですけど。
 
Misao:自分たちが生きている間になれば一番いいのですが。
 
TOSHI-LOW:そうなんです。そうじゃなかったら、子どもたちの世代に、じいちゃんたちが少し抗ったおかげと思ってもらえるといいなと。
 
 
(2019年3月20日:東京都渋谷区にて)
 
 
TOSHI-LOW(トシロウ) <プロフィール>
国内外を問わず積極的なライブ活動を行い、その独自な音楽性とライブパフォーマンスでオーディエンスを圧倒し続けているBRAHMANのヴォーカリストであり、OAUのギター・ヴォーカル。
2011年3月に東日本を襲った震災以降、その迅速な決断と行動によって、多くのミュージシャンやバンドへ影響を与え、各地で起こる災害への支援も迅速に行い、現在もヒューマニズムあふれる支援活動を継続している。
BRAHMANとして、2018年にアルバム「梵唄 –bonbai-」を発表し、単独では初となる日本武道館公演を行った。
OAUとしては、ニューシングル「帰り道/Where have you gone」の発売が2019年6月26日に決定。「帰り道」はテレビ東京系ドラマ24「きのう何食べた?」のオープニングテーマに、「Where have you gone」は映画「新聞記者」の主題歌に使われている。
OFFICIAL WEBSITE(http://www.tc-tc.com

<予告>NO NUKES! human chains vol.09
このインタビュー・シリーズでは、ゲストのかたに次のゲストをご紹介いただきます。TOSHI-LOWさんからは、横山健さん(ミュージシャン/Ken Yokoyama/Hi-STANDARD/BBQ CHICKENS)をご紹介いただきました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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