NO NUKES PRESS web Vol.018(2019/06/26)

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NO NUKES PRESS web Vol.018(2019/06/26)
 
Opinion:「右傾化」の政治に終止符を
 
寄稿:中野晃一(上智大学国際教養学部長・教授)
 
国民世論に反し原発を推進するだけではなく、立憲主義、民主主義国家のありかたと品位を崩しながらも、長期化する安倍政権。迫る参院選に向けて、野党共闘をリードする中野晃一さんにご寄稿いただきました。


【NO NUKES PRESS web Vol.018(2019/06/26)】Opinion:「右傾化」の政治に終止符を 寄稿:中野晃一 @knakano1970 (上智大学国際教養学部長・教授)pic.twitter.com/XoxXe97Xqa http://coalitionagainstnukes.jp/?p=12618

 
 

日本は、「右傾化」しているのか。
 
「平等志向・個人の自由尊重・反戦平和主義(ハト派)・植民地主義の反省と謝罪」を左、「不平等や階層間格差の是認・国家による秩序管理の強化・軍事力による抑止重視(タカ派)・歴史修正主義」を右にそれぞれ位置づけて政治座標軸を捉えたとすると、日本政治はポスト冷戦期に加速度的に「右傾化」してきたと言わざるを得ない。
 
例えば、「平等志向」から「不平等や階層間格差の是認」という意味での右傾化については、政府統計で1985年には16%(男性7%、女性32%)だった非正規雇用の割合が、2016年では37.5%(男性22.1%、女性55.9%)にまで大幅に増えている。
 
同様に、相対的貧困率(等価可処分所得の中央値の半分に満たない世帯員の割合)を見ても、1985年に12.0%だったものが、2012年までには16.1%まで増加しており(『相対的貧困率等に関する調査分析結果について』(2015年12月18日内閣府、総務省、厚生労働省))、OECD(経済協力開発機構)平均を大きく上回っている。
 
また、「個人の自由尊重」から「国家による秩序管理」の強化ということで言えば、例えば、「国境なき記者団」による報道の自由度ランキングは、2002年に26位(134カ国中)だったものが、民主党政権時代の2010年に11位(172カ国中)まで上がったものが、2016年現在72位(181カ国中)まで大きく下げている。これは2013年末に強行された特定秘密保護法の影響が大きいが、さらに安倍政権は過去に小泉政権時代に3回提出されては廃案になった共謀罪をテロ等準備罪と名前を変えて成立させた。また1999年に盗聴法(通信傍受法)が制定され、さらに2016年改正によって適用範囲が大幅に拡大されている。
 
学校教育を通じた国家の秩序管理強化ということでは、1999年に国旗国歌法が制定され、2003年には東京都教育委員会がいわゆる10•23通達を出し、君が代不起立を貫いた教員に対して処分を開始した。2011年には大阪府、翌2012年に大阪市で国旗国歌条例が制定された。2015年からは文科大臣が国立大学に対して卒業式や入学式における国旗の掲揚と国歌の斉唱の要請を始めた。第1次安倍政権では教育基本法が改正された。教科書検定基準が2014年に改正され、政府の統一的な見解や最高裁の判例がある場合、それらに基づいた記述とすることになった(「義務教育諸学校教科用図書検定基準及び高等学校教科用図書検定基準の一部を改正する告示」)。さらには道徳が2018年度より小学校、2019年度より中学校で正式な教科となっている。
 
「反戦平和主義(ハト派)」から「軍事力による抑止重視(タカ派)」への転換では、1992年のPKO法制定によって自衛隊の海外派遣が始まり、1990年代後半にはガイドラインの改定や周辺事態法の制定によって朝鮮半島や台湾有事の際の日米安保条約の運用についての法的整備が進められた。2000年代以降は「周辺事態」に制約されないかたちで日米同盟を基軸とした自衛隊の海外出動がテロ特措法やイラク特措法などによって行われるようになった。小泉政権ではさらに有事法制の整備が進められ、その後の第1次安倍政権では防衛省への格上げや憲法改正に向けた国民投票法が制定された。
 
第2次安倍政権以降では、特定秘密保護法と合わせて国家安全保障会議(日本版NSC)が設置され、2014年7月の集団的自衛権行使を容認する解釈改憲の閣議決定を経て、2015年9月に安全保障関連法が強行された。これと同時に、武器輸出や軍事研究に関する制限が大幅に撤廃されている。
 
最後に、「植民地主義の反省と謝罪」から「歴史修正主義」への転換ということでは、1993年の河野談話や1995年の村山談話などの和解を目指した取り組みが、1990年代後半から攻撃の対象となった。1997年に検定を通過した中学歴史教科書全てに初めて「慰安婦」記述がなされたものが、10年後には完全に消えてなくなった。先に触れた2014年の教科書検定基準改正により、歴史修正主義的な教科書記述が進められている。
 
 
反動的な原子力推進政策への非合理的な固執もまた、当然のことながら、こうした右傾化傾向と一体である。原発が日本のエネルギー政策に不可欠であるという虚構は、軍事力の歯止めなき増大という安全保障政策と表裏の関係にあり、このような不誠実な政策の推し進め方は、国家権力の肥大化と私物化、そして財界との節度なき一体化なくしてそもそも成立しようがないからである。
 
また、このような右傾化傾向は、歴史観や政治観における復古的なナショナリズムと経済政策や安全保障政策面における対米追随的な改革路線の組み合わせによって形成されてきた。この両者は一見鋭く矛盾するように見えながら、実際には、理念的な親和性、利害の適合性、そして政治的な補完性によって結ばれている。
 
復古ナショナリズムは安倍首相本人とその周辺の中核的な信念であるが、第1次政権の失敗を踏まえてカムバックを図る過程で、アベノミクスと称される経済改革パッケージが前面に押しだされた。政権復帰後も、安倍政権は復古ナショナリズム的なアジェンダと、アベノミクスや対米追随的な安全保障政策面での政策の推進との間のバランス取りに腐心してきた。しかし、2014年夏頃から2015年冒頭まで復古ナショナリズム方向に前のめりになったが、その後は対米追随路線に舵を切り直し、アメリカの容認する範囲で復古ナショナリズムを推し進める方針に転じた。
 
2016年夏に参議院選挙で改憲勢力として3分の2の議席を獲得し、さらに2017年10月の衆議院選挙においてもまた連立与党で議席の3分の2を手にした安倍政権だが、悲願の憲法改正へとひた走ることができるとしたら、それは北朝鮮とアメリカの緊張の高まりを追い風にすることなくしては、実は容易ではない。先に右傾化のプロセスの3つの特徴を挙げたが、政治エリート主導で進められてきた右傾化傾向に対する市民社会の反発が、単なる一時的な揺り戻しにとどまらない程度まで高まってきている可能性がうかがえる。
 
2017年10月衆議院選挙の表面的な「圧勝」にもかかわらず、実は自民党の絶対得票率(棄権者を含めた全有権者のうち自民党に投票した有権者の割合)は低迷しつづけている。それどころか当時の民主党に惨敗した2009年の18.1%から、2012年は16%、2014年に17%、そして今回2017年もわずか17.3%(いずれも比例区)と下回ったままである。安倍自民党は、現実には麻生自民党より一貫して不人気なのだ。政権の長期化にともない、また一連の事件や疑惑を通じて国家の「私物化」に対する批判が広がり、今後も実質的な支持を高めていく条件は乏しい。
 
「他よりましだから」「他にいないから」という消極的支持に依拠してきた安倍政権の最大の秘訣は、野党を分断し弱体化することにあるが、2017年総選挙はそういう意味でも野党が底を打った兆しを見せた。小池百合子と前原誠司による民進党の希望の党への合流によって、「対米追随改革」路線による最大野党・民進党の「乗っ取り」の企てを、市民が立憲民主党や日本共産党、社会民主党と連携して退けたことの意義は決して小さくない。
 
民主党として2009年に比例区で28.7%あった絶対得票率が、2012年に9.3%、2014年に9.4%と激減したことが、安倍政権下での急速な右傾化進展の基礎条件をなしてきた。公示日のわずか1週間ほど前に駆け込みで結党し、公示前議席数わずか15議席、争われた全465議席に対して78名しか候補を立てることができなかった立憲民主党が、55議席を獲得し、希望の党を抜いて最大野党の地位を得たわけだが、圧倒的に不利な条件にもかかわらず比例区で10.3%の絶対得票率と民主党の過去2回の実績を若干とはいえ上回ったのであった。
 
安倍自民党を支える消極的支持の脆弱さはすでに明らかになっている。問題は、このような「裸の王様」に対峙する市民と立憲野党の共闘がどこまで大きな広がりをつくり、そして明確な対立軸を示すことができるかである。こうした課題への取り組みのなかで、脱原発へと大きく舵をきる姿勢を鮮明に打ち出すことは必須であろう。
 
民意を置き去りにした政治エリート主導の右傾化は、ついに彼らにとっての「総決算」とも言える憲法改正へと進むのか、それともここで壁にうち当たるのか、今夏の参議院選挙という最大の山場が目前に迫っている。
 
 
 
中野晃一 <プロフィール>
上智大学国際教養学部長・教授。
1970年東京生まれ。政治学(日本政治、比較政治、政治思想)。
東京大学(哲学)および英国オックスフォード大学(哲学・政治学)卒業、米国プリンストン大学で政治学の修士号および博士号取得。安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合、安全保障関連法に反対する学者の会、立憲デモクラシーの会の呼びかけ人。
近著に『私物化される国家-支配と服従の日本政治』(角川新書)、『つながり変える 私たちの立憲政治』(大月書店)、『右傾化する日本政治』(岩波新書)、『戦後日本の国家保守主義―内務・自治官僚の軌跡』(岩波書店)、共著に『嘘に支配される日本』(岩波書店)、『「改憲」の論点』(集英社新書)、『いまこそ民主主義の再生を!新しい政治参加への希望』(岩波ブックレット)、『集団的自衛権の何が問題か』(岩波書店)、『ヤスクニとむきあう』(めこん)など。
Twitter @knakano1970 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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